

退職代行サービスの利用が広まる中、トラブルに関する相談も増えています。
「本当に辞められるの?」「違法業者だったらどうしよう」「従業員から突然、代行で辞めると連絡が…」そんな不安を抱えるのは、サービス利用者だけではありません。

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1.退職代行利用者が直面する3つの代表的トラブル

退職代行サービスを利用する人が増える一方で、「想定と違った」「うまく退職できなかった」といった声も後を絶ちません。ここでは、利用者が直面しやすい代表的な3つのトラブルを紹介します。
1−1.非弁行為に関わる違法業者の存在
最も深刻なのが、「非弁行為」とされる違法なサービスです。非弁行為とは、弁護士資格を持たない者が報酬を得て法律業務を行うことを指します。たとえば、退職時に発生しがちな「未払い残業代の請求」や「有給消化の交渉」は法律業務に該当するため、弁護士または労働組合に所属する団体でなければ対応できません。
一部の業者は「代わりに伝えるだけ」と言いつつ、実際には交渉に踏み込んでしまい、違法行為となってしまうケースも。利用者としては、知らないうちに違法なサービスに関わってしまうリスクがあるのです。
1−2.退職が会社に伝わらなかった、手続きが進まなかった事例
もうひとつのトラブルが、業者から会社に退職の意思がうまく伝わらず、手続きが宙に浮いてしまうパターンです。
たとえば、連絡手段がメールのみで、しかも会社側の担当者に届いていなかったケースや、業者の連絡が非常に曖昧だったため、会社側が「本人の意思かどうかわからない」と判断し、受け付けなかったケースがあります。
退職は労働者の権利ですが、きちんと会社に意図が伝わらなければ意味がありません。結果として退職日がずれたり、社会保険の手続きが遅れたりと、利用者にとって不利益になることもあります。
1−3.サービス内容の誤認・料金トラブル
退職代行サービスには、料金体系やサポート範囲が業者ごとに大きく異なります。しかし、十分な説明がなされないまま契約し、「思っていた対応が含まれていなかった」「後から追加費用を請求された」といったトラブルも見られます。
特に注意すべきなのが、安価な料金で「全対応可能」とうたっている業者です。実際には追加料金が発生したり、対応範囲が狭かったりすることもあり、契約前の確認が不十分だと、思わぬトラブルにつながる可能性があります。
2.信頼できる退職代行業者の見分け方

こうしたトラブルを防ぐには、信頼できる業者を見極めることが何よりも大切です。ここでは、安心して任せられる退職代行業者を選ぶための3つのポイントを紹介します。
2−1.弁護士が対応しているか(労働組合 or 法律事務所)
法律的な交渉が必要になる可能性がある場合は、弁護士または労働組合が運営するサービスを選びましょう。労働組合は「団体交渉権」を持っているため、企業とのやりとりも合法的に対応できます。
「弁護士監修」などの表記がある業者でも、実際に弁護士が関与していない場合があるため、「実際に対応するのは誰か」を明確に確認することが大切です。
2−2.実績・評判・口コミの確認方法
SNSやレビューサイトでの口コミや実績の確認も欠かせません。ただし、ステマや自作自演のレビューも存在するため、複数の媒体を見比べたり、実名での体験談を優先したりするのがポイントです。
可能であれば「過去にどのような対応をしたか」「退職成功率はどれくらいか」などの実績を明示している業者を選ぶと安心です。
2−3.明確な料金・サービス範囲の提示があるか
料金が明確で、かつ「どこまで対応してくれるのか」がしっかり明記されているかは非常に重要です。中には「〇〇円〜」のように曖昧な表示で、あとから高額な追加料金を請求してくる業者もあります。
契約前に「この金額でどこまでやってくれるのか」「別途費用がかかる場面はどんなときか」など、具体的な条件を確認しておくことが、トラブル回避の第一歩です。
3.退職代行提供者が気をつけるべき法的リスクと注意点

退職代行サービスを提供する側にも、法的なリスクや注意点があります。特に、以下の3つのポイントをしっかり理解し、対策を講じることが求められます。
3−1.非弁行為と判断されないための線引き
退職代行サービスは、「退職の意思を伝える」ことが主な業務範囲です。それ以上の対応、たとえば「退職日を交渉する」「未払い給与を請求する」などは、弁護士や労働組合でなければ行えません。
もし違法行為と判断された場合、業者自身が処罰を受けるだけでなく、利用者にも不利益が及ぶ可能性があります。提供者は、業務の線引きを明確にし、社内でマニュアル化することが重要です。
3−2.業務範囲の説明と書面化の重要性
利用者に対して、どこまでが業務範囲かを正しく説明し、誤解がないよう契約書や確認書などの書面に残すことが大切です。「サービスに含まれていると思っていた」との誤認によるトラブルは、書面があれば未然に防ぐことができます。
3−3.トラブルを避けるための契約書・利用規約の整備
サービス内容・対応範囲・料金・キャンセル規定などを網羅した利用規約や契約書を整備することは、提供者自身を守ることにもつながります。万一トラブルが発生した場合でも、きちんとした契約書があれば、法的にも有利に対応できます。

4.企業側が受ける退職代行通知:適切な対応と注意点

突然、退職代行業者から従業員の退職意思が伝えられた企業側は、どう対応するのでしょうか。企業側には感情的な対応をせず、法的に正しく対処することが求められます。
ここでは企業が取る内容についてもお伝えします。

4−1.無視してはいけない!法的に正しい対応とは
まず重要なのは、退職の意思が書面や第三者を通じて伝えられた場合でも、法的には有効であるという点です。企業としては、「本人からでないと認めない」という対応は避けるべきです。
退職の通知が来た場合には、その日をもって受理するか、就業規則に沿って退職日を調整する必要があります。無視した結果、トラブルに発展すると、企業側に不利益が及ぶ可能性もあります。
4−2.必要書類・業務引き継ぎの対応ポイント
たとえ本人と直接話せなくても、退職に際して必要な書類(離職票、源泉徴収票など)は企業側の義務として送付する必要があります。また、業務の引き継ぎができない場合に備え、マニュアル化を進めておくことも、再発防止の一歩となります。
4−3.再発防止に向けた職場改善の視点
退職代行を利用される背景には、「職場に直接言えない」「精神的に追い詰められている」といった問題があるケースも少なくありません。企業としては、従業員が安心して相談できる環境を整え、定期的な1on1面談やストレスチェックの実施などを通じて、早期に兆候を察知する仕組みが求められます。
5.まとめ:それぞれの立場で知っておくべき「退職代行とトラブルの実情」
退職代行という仕組みは、働く人々にとって「最後の手段」として存在意義を持ちつつあります。しかしその一方で、利用者・提供者・企業それぞれにとってのリスクや課題も明確になっています。
利用者は「違法業者に引っかからないこと」、提供者は「法の範囲を守り、誠実にサービスを提供すること」、企業は「冷静かつ法的に正しい対応を行うこと」が、トラブル回避のために必要不可欠です。
今後も退職代行市場は拡大が予想されます。だからこそ、利用する・提供する・受け取る、それぞれの立場が正しく理解を深め、トラブルを未然に防ぐ意識を持つことが、社会全体にとっても大きな価値をもたらすはずです。